Chapter.05,06
二人が浴室に篭ると、ナマエは彼女達が出てくるまで階下で過ごすことにした。
エルザとともに一階へ降りると、酒場の一角ではマナミアとジャッカルが深刻そうな表情で、地図らしきものを卓上に広げて話し込んでいた。
「エルザ、ちょっとこっち来い」
視線に気づいたクォークが、手を上げてエルザを呼ぶ。
呼ばれてエルザが行ってしまうと手持ち無沙汰になってしまい、ナマエは奥の椅子に腰を下ろした。ホールを見渡すも、ユーリスもいない。もう部屋に戻った後のようだ。
夜更けまではまだ時間がある。
アリエルに白ワインの水割りを頼み、吟遊詩人の歌を聞きながらちびちびと喉を潤しつつ、明日のことを考えた。
きっと明日には、クォーク達は仕事に出るだろう。そうすると、必然的にナマエもここを出なければならない。記憶がないことを理由に甘えていられる時間は長くない。
今日は賭けで大敗を喫したが、明日は闘技場に参加するほうで稼いでみようか。身体は動くし、戦い方も染みついている。それが自分という人間の手がかりにもなるかもしれない。
などと考え込んでいるところ、急に視界に陰が差した。顔を上げると、クォークが立っていた。
「こんな時間でなんだが、急な仕事が入った。荒っぽい仕事になりそうなんだが、俺達と一緒に来るか?」
まさしく渡りに船だ。ナマエはニッと笑った。
「金になるなら、なんでも」
「悪いが正式な依頼じゃないから、報酬はあまり期待するな」
「いいよ。食い扶持を稼がなきゃな」
立ち上がって武器の確認をしていると、クォークが眉をひそめた。
「今日、換金してきたんじゃなかったか?」
「ああ、賭けでほとんどスッちゃったんだ」
あっけらかんと答えると、彼は頭を抱えた。
「お前……」
「もうしないよ。さすがに懲りた」
信用がないのか、クォークは肩を竦めただけだった。
道すがら、クォークが簡潔に仕事の内容を説明する。
酒場の主人の息子が病気で、その治療薬を商人から奪った盗賊団のアジトに、これから忍び込んで取り返すのだという。
同行者はクォーク、エルザ、マナミア、ジャッカル。
郊外へ向かうと、民家に紛れてひっそりと目的のアジトが建っていた。
エルザが建物の二階の窓から単身侵入し、まず扉を開けた。ひとまず潜入成功だった。
建物の中はまさしく倉庫で、あちこちに戦利品が無造作に置かれていた。粗雑に並べられた木箱、壊れた樽、奪われた戦利品の山。
その中を、手分けして薬を探していく。
しかし建物の中には他の部屋に続く扉もなく、見張りもエルザが倒した一人しかいなかったようだ。ずいぶんと無用心だと思う。
「ずいぶん溜め込んでやがるな」
ちっ、とクォークが薬を探しながら舌打ちする。
ナマエは足元に転がっていた見張りの死体から、何かめぼしいものはないかと漁った。
秘密の扉の鍵やメモでも持っていないかと思ったが、残念ながら何も見つからなかった。代わりに腰に括られた剣と小銭入れを失敬する。剣は売り物にする予定だ。
「何をしているんだ?」
エルザがのぞき込み、眉を寄せる。
「いや、金目のものは持ってないかと」
「なんか……追いはぎみたいだよ」
エルザが情けなさそうに眉を下げる。彼はどうも死体を漁るのは抵抗があるようだ。
「気にするなよ。金に武器に宝石、どれも死者には不要のものだろ?」
ナマエは気にせず、懐に戦利品をしまった。
さて、棚の中や木箱の中は全部漁った。しかし薬は見つからない。
完全に手詰まりの状態だった。しかも、いつ潜入がばれてもおかしくない状況だ。
「どうする? 早くしないと俺らが見つかるぞ」
「他に部屋もねーしなあ」
ジャッカルが壁にもたれた瞬間、がこん、と低い音が響いた。壁の一部が横へずれ、隠し扉が口を開く。
「隠し扉か」
その向こうは地下へ続く階段になっている。幸いにも見張りはいない。無用心だ。しかし好都合でもある。
「秘密のお部屋へご招待……か。ワクワクするねえ」
ジャッカルが軽口を叩きながら、開かれた道へと足を踏み出した。
クォークが続こうとした時、ふと壁にかけられていた旗を見て目を見開いた。
「おいエルザ、これ見ろよ」
「これは――ゾラの旗」
エルザの表情も険しくなる。どうやら知り合いらしい。しかし彼らの表情から見るに、あまり好ましい知り合いではないようだ。
「あの野郎。本土で見なくなったと思ったら、こんなところで」
クォークは旗に拳を叩きつけた。布が揺れ、埃が舞う。
話を聞くに、どうやらクォークたちの昔の仲間らしいが、今は盗賊に身を窶しているという。
「昔の因縁はさておき、今は薬を探すのが先ですよ」
そのまま昔話に突入しそうになったが、マナミアの一言に当初の目的を思い出して、ひとまず奥へと進んだ。
階段を下りると、薄暗い通路の先の部屋から複数の下品な笑い声が聞こえた。
クォークが仲間へ手信号を送り、足音を消して近づく。
中では盗賊たちが酒を回しながら、これからの計画について語り合っていた。
――地下に魔物を捕らえている。それを街へ放ち、混乱に紛れて盗みを働く。
発想は大胆だが、あまりに大雑把で粗い。
「なんてことを……ひど過ぎます! 許せない!」
マナミアが小声で憤慨する。
クォークが、ふんと鼻を鳴らした。
「そういう奴らさ。本土でも悪逆非道の限りを尽くしている」
「このことを衛兵に通報すれば、あいつら一発で牢屋行きだけどな」
どれだけ大胆な窃盗計画だろうとも、なにせ内容を知ってしまった人間がここに五人もいるのだ。が、ナマエの言葉に、ジャッカルが首を振った。
「どうだろうな。俺達の証言だけじゃ衛兵が動くかどうか」
しかし、部屋の中にいる敵の数が若干多い。
薬はおそらく部屋の中にあるのだろうが、部屋の外から窺う限りではどこにあるのか分からない。このままでは突入は避けられないが、出来れば穏便に事を済ませたい。
「おいナマエ、あの例の変な魔法で薬だけ取れないか?」
「……念動力のことか? 無理だよ。取る対象が分からなければ魔法をかけられない」
クォークは不満そうに舌打ちしたが、結局は直接問いただすしかないという結論に至った。
反対側の扉から回り込み、挟み撃ちで奇襲をかけることにした。
ナマエはクォークとジャッカルの後についていきながら、尋ねた。
「殺していいの? それとも気絶させる?」
「かまわん。好きなだけやれ」
「あ、そう……」
クォークの目には殺意がぎらついている。かつての仲間に対する気遣いはまったく無用のようだった。
それぞれ配置につくと、合図とともに突入した。
盗賊たちは完全に不意を突かれ、悲鳴と怒号が飛び交う。武器を捨てて降参する者、逃げようとする者――混乱の中、ひときわ人相の悪い大柄な男が立ち上がった。
ゾラ。
クォークと同じ傭兵団にいた、かつての仲間だ。
「な、なんだ貴様ら!」
「久しぶりだな、ゾラ」
クォークが不敵に笑う。ゾラはクォークの顔を見て、顔を歪ませた。
「その髪型……、てめえはカリアゲクォーク!」
「誰がカリアゲだ! てめぇ!」
どうやら髪型のことは禁句のようだ。頭に血が上ったクォークが怒りに任せて剣を振るう。
「くっ……!」
切っ先がゾラの腕を裂いた。数歩よろけて、斬られた腕を押さえている。
容赦なく、クォークがゾラの首元に切っ先を向けた。
「さあ、お前が最近手に入れた薬とやらを渡してもらおうか」
「へっ、盗人の上前をはねようってのか? 結局お前も同類だな」
口の減らない男にクォークが苛立ったように舌打ちする。
「うだうだ抜かすな。首が落ちるぞ」
目が本気だった。それを感じたのか、ゾラは武器を床に落として両手を上げた。
「降参だ。薬はそこの棚にあるが……」
ニヤリ、と不敵な笑み。次の瞬間、足元からカチリと機械の音がした。
「――カリアゲにはやらねぇ!」
宣言と共に訪れたのは、足元の浮遊感――。
「なにっ?」
落とし穴だ。
一行は悲鳴とともに、闇の底へと落ちていった。
落下した先に待っていたのは、暗く冷たい水の中だった。
暗く淀んだ水が口と鼻へ容赦なく流れ込み、ナマエは反射的に腕を掻いて浮上する。足先から綺麗に入水したおかげで身体の衝撃は少なかったが、喉の奥に生臭い味が残った。
水面から顔を出し、咳を数度。下水の臭いではないが、清潔とは言い難い。近くの石畳を見つけ、ほとんどよじ登るようにして岸へ上がった。
「くそっ、なんなんだよ!」
「まんまとやられたなぁ、クォーク」
遅れてクォークとジャッカルが水面を割り、こちらへ向かってくる。ナマエは手を伸ばし、二人を引き上げた。
「落ちた先が水の中で助かったな。地面だったら骨折ってたかも」
「そうだな、盗賊なりに死なないように気を使って落とし穴作ったのかもな」
「あいつにそんな殊勝なところがあってたまるか!」
ジャッカルの冗談に、クォークが憤った。
ひとまず落ち着いてあたりを見回すと、どうやら地下水路のようなところに落とされたらしい。石壁は湿り、暗くじめじめとして、あまり長居はしたくないところだ。
濡れた服と髪を絞り、魔法で手早く乾かす。クォークにも同様に魔法をかけてやり、残るはジャッカル、と振り返ると、急に手を取られた。
全身ずぶ濡れのままのジャッカルが、髪から水を滴らせ、なぜか得意げな笑みを浮かべ、ナマエを覗き込んでいる。
「なあナマエ、俺って……水も滴るいい男だろ?」
寒さのせいか、唇が若干青くなっている。そんな状態で何を言ってるんだか、と思いながらナマエは手を振り払った。
「じゃあ、ジャッカルはそのままでいいかな」
「え」
「そうだな。先を急ぐか」
「あ、ちょ、冗談だって!」
ナマエは額を押さえ、仕方なく乾燥魔法をかけてやった。いつもより少し熱めの風に、ジャッカルが「熱っ!?」と情けない声をあげる。
錆びた鉄格子の梯子を伝って上の階へと移動した。あまりにも暗いため、魔法を唱えて浮遊する灯りを作ると、光から逃げるように鼠が足元を走り去っていった。
明かりを頼りに、慎重に道なりに進んでいく。
「松明いらずとは便利だな。俺にも教えちゃくれねぇか?」
「お金取っていいなら」
「ま、そうだわな。……ちなみに体で払うってのは――」
「却下」
ジャッカルのおふざけに即答すると、彼はからからと笑った。この状況で冗談が出る程度には、まだ余裕を保っているようだ。
ナマエはため息をつき、前方へ意識を戻す。
「……エルザとマナミアは無事かな」
「あの二人なら大丈夫だろ。――おい待て、前方に影が見える。ナマエ、明かりを消せ」
「了解」
クォークの言葉に立ち止まり、灯りを消して物陰に隠れた。
前方には複数の影。だが、人間の形ではない。影の股の間に、もう一本。足が三本……ではなく、尻尾のようなものが生えているようだ。
「あれは……?」
「ありゃリザードだな」
ジャッカルが低く答える。
「リザード……、亜人なのか?」
「違う」
クォークが続ける。
「魔物だ。帝国本土でも厄介者でな。なにせ勝手にあちこちの地下に巣を作るせいで、地盤沈下の原因にもなっている」
「なるほど……。嫌われ者ってわけか」
訊けば、それなりに知性や独特の社会性もあり、魔法も扱うようだ。
ふいにジャッカルが口を開いた。
「おい大将、バレたみたいだぞ」
「なに? チッ、あいつら夜目が効くからな……」
リザードたちが素早くにじり寄ってくる。クォークが剣を抜く音と同時に、ナマエは弓を構えた。
矢が一体の喉元を射抜き、戦闘が始まった。
リザード達は鎧で武装しており、予想より粘った。
ジャッカルは魔法で水路の水を凍らせ、うまく地面を滑らせて転ばせている。
ナマエは二人から離れて、積極的にヘッドショットを狙った。が、こうもつるつる転ばれると、逆に的が狙いにくい。
「あーもう、まどろっこしいな」
何度目かのミスショットが続き、ナマエは諦めて弓から剣に持ち替えた。
ジャッカルと小競り合いをしていたリザードの背後から忍び寄って、剣を思い切り横に振りかぶった。
「うわおっ!」
リザードの首が飛ぶ。血しぶきがジャッカルの頬に飛び散った。
「ほう、見事な剣筋だな」
床に落ちたリザードの首を見て、クォークが感心した。
「これで全部か。行くぞ」
「ねえナマエちゃん、その前に俺に言うことないかな……?」
「……ああ、返り血滴るいい男になったな、ジャッカル」
文句を言うジャッカルを無視し、先へ進む。
「うわ、嬉しくねー」
壊れた壁を抜けた先に、さらに上に続く道を見つけた。だが、その手前に見張りよろしく巨大なリザードが立ちはだかっていた。どうするか、と様子を窺っていたところ、丁度エルザとマナミアが合流した。
「クォーク、みんな! 無事だったか」
「当たり前だ」
クォークがにやりと笑って答えた。
巨大なリザードは結局、エルザとクォーク二人の阿吽の呼吸で倒してしまった。
梯子を上ると、ようやく地下水道の空間からは脱出できたようだ。
続く通路の両端には鉄檻が並んでおり、その中にはリザードたちが捕まっていた。様子がおかしく、ふらふらとして視線が定まっていない。薬が盛られているようだ。
「街に放つと言っていたのはこいつらか。対処しておいたほうがいいんじゃないか?」
「閉じ込められているからひとまずは問題ないだろう。リザードの殲滅は、今回の依頼とは関係ないしな」
クォークはそっけなく言い捨て、進む。
そのまま奥へと進むと、まるで待ち構えていたかのようにリザードの大群がエルザ達を迎え撃った。
エルザが光で敵の注意をひきつけながら、敵を次々吹き飛ばす。
ナマエが油断して近寄った瞬間――、ぱしん、と光の鎖が体に絡みついた。
「またか……!」
体にかかる重力がぐっと増し、足先がエルザのほうへと勝手に向く。抵抗は無駄なようだった。
「なあエルザ。その光……どうして私だけ捕まってるんだ?」
「わ、わからない! どうしてかな……!」
エルザはどこか上の空でそう言いながらも、調子よくリザードを吹っ飛ばしていく。
「動きが制限されてやり難いんだけど、なんとかならない?」
「そうしたいけど、どうすればいいのかわからないんだ!」
エルザの身のこなしは軽く、ずいぶんと調子がいいようだ。
対照的に、ナマエの体はどんどん重くなっていくのを感じていた。魔力が吸われているような感覚まである。
「……まるで力を吸収されているみたいだ」
ようやく戦闘が終わり、エルザの不思議な光が収まると同時に体も軽くなる。
それにしても不思議な現象だ。他の仲間も同様ならばともかく、ナマエ一人だけが光に捕まるとは。
「もしかしてエルザさん、ナマエさんのこと……敵だと思っていたり……?」
「へっ!? そ、そんなことないってば!」
エルザはそんなマナミアの言葉を全力で否定してきたが、実際のところどうなのか分からない。エルザが内心でナマエのことを敵とみなしているから、というのは確かに一理ある。
「なるほど……?」
ナマエが呟くと、エルザが勘違いして「違うからね!?」としつこく食い下がってきた。あまりにしつこかったので「わかったから」と手で追い払うと、若干傷ついた表情をしていたが、そ知らぬふりをした。
次の間にはこれまた巨大なオーガが待ち構えていたが、今度はエルザに近寄らぬよう気を付け、遠距離から弓の狙撃に徹した。
奥へと進むと、そこにはゾラの一味が待ち構えていた。クォークとゾラの罵り合いの末、巨大な魔物が呼び出された。
頑丈そうな装甲に覆われたグールはこれまた弱点を探し出すのに難航しそうだったが、丸いフォルムはよく転がりそうだ。ゾラはよくこんなものを飼いならすことが出来たものだ。
ナマエはまず高台にいる盗賊を狙い撃ち、安全な狙撃ポイントを奪取した。高台に上り、暴れるグールの目元に狙いを澄ます。目はたいていの生物にとって弱点だ。
頭部を狙って攻撃を続けると、うまく弱点にヒットしたのかグールが苦しそうに転げまわった。やがて壁に激突し、扉に挟まれ身動きが取れなくなった。
「今だ!」
その隙に矢や魔法、剣撃を浴びせる。
何度か繰り返し、ようやく巨体が崩れ落ちた。
「おい、ヤツを追うぞ!」
休む間もなく、クォークが仲間を先を急かす。
追い詰めた先は、最初に落ちた罠の部屋だった。
そこに残っていたのはゾラ一人。
「ま、待て、金か? 金ならやる! 命だけは助けてくれ!」
エルザが剣を突き付けると、ゾラはみっともなく命乞いをした。腰を抜かしながら逃げ出す様は情けなく、先ほどまでの威勢はどこにいったのやら。
「いまさら命乞いか? いいぜ、俺様にひざまずいて靴をなめな。話はそれからだ」
クォークが逃げ道を塞いだ。散々『カリアゲ君』と侮辱されたクォークは、生き生きとゾラを言葉で攻め立てる。
「まあどの道、明日の朝日は拝めないがな」
どうやら見逃す気はさらさらないらしい。ゾラの表情が絶望に染まった。
クォークがふっと不敵に笑う。
――瞬間、ゴンと鈍い音がした。
「悪い人にはお仕置きですわ」
背後から忍び寄ったマナミアの渾身の一撃を受けて、ゾラは白目をむいて昏倒した。
「マナミアに免じて命は助けてやる。だが、次はないぜ」
そう捨て台詞を言い、クォークは剣を収める。
甘いな、とナマエは思った。やはりかつての仲間には、どうしても情がわくものなのだろうか。
ようやく薬を手に入れて酒場に戻った頃には、深夜も程近い頃となっていた。
セイレンとアルが出迎え、エルザはアルを見るなり露骨に顔をほころばせる。薬の件はマナミアに任せて、ナマエはさっさと部屋へ引き上げることにする。夕方折角風呂に入ったのに、水路に落とされ、なんとなく不快だった。
一日に二度も風呂に入るのもなんだったが、我慢しきれず浴室へと向かう。
さっと体と服を洗って部屋に戻ると、丁度マナミアが入室してきたところだった。
「マナミア、病気の子はどうなった?」
彼女はにこりと微笑んだ。
「はい。きっともう大丈夫ですわ」
「そりゃ良かった」
苦労した甲斐があったというものだ。
ふと、マナミアが窓の外へ目を向けた。
「あ、見てナマエさん。夜空が綺麗ですよ」
つられて外をのぞく。
真夜中の空に、星々が瞬き、流星がいくつも尾を引いていた。
まるで夜空が涙を流しているように、次々と。
「……すごいな」
ナマエはそっとため息をついた。
冷たい風と星の光が、今日の疲れを静かに洗い流していった。
2025/11/24改稿