色気って
――今日も今日とて、資質集めに精を出す。
ドゥヴァンにある神社へと続く階段は、一体何処まで続くんだと参拝者泣かせで有名なほど長い。しかも登りきったらきったで、ちいさな巫女ちゃんが一人。しかもおみくじはいつも売切れだ。術に関する情報など、これっぽっちもない。
そんなことも知らず、ブルー一行はその階段を駆け上がっていた。先を行くのは剣と荷物を背に担いだナマエ、余裕の表情で駆け上がっていく。次にいくのは、ルーン探しでいつの間にかちゃっかり仲間になっていた、クーロン裏通りの医師、ヌサカーン。ヤブ医者なのではないかと噂のある彼は、実は変わり者の妖魔であった。これも、疲れなど知らぬ顔で階段を上っていた。そしてお次は、何故かスライム状のものが、ぬたり、ぺたりと一生懸命に階段を這い上がっていた。これもやはり、資質集めでタンザーに飲み込まれたときに、勝手についてきてしまったものだった。しかし、スライムながらも、良い健闘振りだった。
そしてそして、我等がブルーは……。
「き、貴様ら、すこしは、加減しろ……!」
ぜえぜえ、と肩で息をしながら、先を行く仲間に向かって悪態をつく男が一人。よろよろになりながら、最後尾を走るのは、何を隠そうブルーであった。
「ブルー、体力なさすぎです」
一人先行くナマエは、その声に振り返って、哀れみの目をむけた。
「う、うるさい」
相変わらず口の悪い。ナマエは一瞬彼を置いていこうかと思ったが、後が怖いので大人しく彼が追いつくのを待った。
ほうぼうのていでブルーが追いつくと、がくりとその場に膝をつく。スライムが傍らに来て、ぴょんぴょんと飛び回っていた。
「少し走っただけなのに、もうそんなに息上がっているなんて、これだからキングダムのインテリさんは」
厭味を言うと、ブルーはぎろりとナマエを睨んだ。しかし、反論する余裕もないのか、頬を上気させたまま、肩で息をしている。その姿は、どこか色っぽい。
「ブルー、疲れたのなら、この白衣で癒してあげようか」
「近付くなヤブ医者め」
すかさずにこやかに近付いたヌサカーンを、ブルーは一蹴にする。ヌサカーンの白衣は妖力が宿っているゆえか、癒しの力を持つのだ。故に戦闘においては重宝したが、それを使うときには必ずヌサカーンに抱きつかれなければいけないので、特にブルーは嫌がった。ちなみに、ナマエは笑いながら逃げまわる。
「頭ばっかり使ってるから、そんなモヤシみたいな体になるんです」
「誰がモヤシだ!」
癇癪を起こしながら、ナマエが差し出した水をひったくる。
「しかし、そうやっていると、本当にか弱い女の子みたいですよね。ディスペアあたりの男共が好みそうな」
ナマエのしみじみとした言葉に、ごふっ、とブルーが吹き出した。
「云いえて妙だな、ナマエ。私も、先程からブルーの色気に惑わされそうなのだよ」
「な、ヌサカーン、貴様、変態なのも大概にしろ! 俺は男だ!」
そう吼えるも、顔が赤いのでいまいち迫力に欠ける。
ヌサカーンは、にやりと笑った。
「私は妖魔だからな、どちらが相手でもかまわない。勿論ナマエ、君も大歓迎だぞ」
「結構です」
「変態ヤブ医者は黙ってろ」
二人のつっこみが重なる。
ヌサカーンはしかし、つめたいな、と大して堪えてないふうに、笑っていた。
まったくもう、とナマエは、振り返っていきなり爆弾発言を落とした。
「ブルー、ということで今日から三日間術禁止」
は? と呆気に取られたブルーは、思わず持っていた水のボトルを取り落とした。
「な、なんだと?」
「少しは筋肉つけないと、いつかあのヤブ医者に押し倒されますよ! さあこれを持って、いざ朱雀先生の元へ!」
剣をブルーに押し付け、特訓です! と一人意気込み、今度は来た道をもの凄い勢いで下っていった。
恐らく、IRPOのヒューズに頼んで、ムスペルニブルのあの難攻不落な朱雀のもとへ行くのだろう。あそこの朱雀は術をひらめくのに丁度良い場所で、良く知られている。
取り残されたブルーは、赤い顔のまま唸った。
「あの女、いつか押し倒してやる……」
隣に居たヌサカーンが、爽やかに笑った。
「その時は私に云いなさい。良い薬が沢山あるからな」
「――いらんわっ! 変態医師め!!」
ドゥヴァンの青い空に、どぉん、と凄まじい音が響いた。