おねがい





「僕、一生に一度で良いから、やってみたいことがあるんだ」
 ある日突然、とても真剣な表情でルージュに言われ、ナマエは目を点にした。

 一生のお願いだから、と言われて渋々ながらもルージュに連れられてきた所は、大都市マンハッタンだった。超高層ビルが立ち並ぶ、時代の最先端をいくリージョンだ。街には高級ブティックが軒を連ね、お洒落に着飾った人々がそこかしこにいた。
 ナマエは、ルージュがこんなところに何のようがあるのだかサッパリ検討がつかない。もしやブティックにでも連れてってくれるのかと思いきゃ、ルージュは何故かファーストフード店に足を伸ばした。

「ちょっと待っててね」
 笑顔で言われ、ルージュは一人レジへと向かう。
 残されたナマエは椅子に座り、ぼけーっと店内を見回していた。色んな人々が、味気ないジャンクフードを無表情で食べている姿は、どこか寂しく感じる。豊かな筈の大都市の人間は、どこか忙しなさを漂わせていた。
 なんだかなぁ、と思いつつ、ぼんやりとルージュの帰りを待った。
 すると、ラージサイズのコーラを手に持ったルージュが戻ってきて。
「お待たせ」
「……あれ? 私の分は?」
 手には何故かストローがニ本。コーラが二つじゃなくて、ストローが二本。ナマエは首を傾げた。
 ルージュはそんなナマエの問いは綺麗に無視し、おもむろにナマエの真正面に座ってコーラを真ん中に置いた。そして、持っていたストローを二本とも挿すと。
「さあ、飲んで」
 そう満面の笑みで告げた。
「……」
 ――いや、飲んでと言われても。
 ナマエは思わず内心で突っこんだ。
 一体なにがしたいんだこの術士さんは。と思った瞬間、はっと何かがナマエの中で閃いた。
「も、もしかして、お願いってこのことですか?」
 恐る恐る訊くと、予想通りルージュはにっこりと頷いた。
「一度やってみたかったんだ。好きな子と、一緒にジュースを分け合って飲むの」
 言って、ルージュは一方のストローを口に含んだ。ちるちる、と音がしてストローがコーラ色に染まった。
「あーはいはい、……って、え!!?」
 なるほどね、とナマエは一瞬余りにもさらりと告げられた事に思わず納得しかけ、しかし焦ったように声を張り上げた。
「す、す、好きな子って、どういう意味ですか!?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
 するとルージュは顔をあげ、惚けたように微笑んだ。

「好きだよ、ナマエ

 ……ああ、この愉快犯め。
 まさしく天使の微笑みにノックアウトされたナマエは、ルージュに請われるがままに真っ赤な顔でコーラを半分こしたとか。