未来




 しんとした寝室に、するすると衣擦れの音が響く。重なった吐息が零れた。
「ん、公閭様。だめ」
 触れるだけだった口付けから次第に熱を帯びたそれを一心に受けながら、ナマエは内衣の袷から侵入してこようとした手を押しとどめて云った。
 侵入するはずだった骨ばった手がためらったように、押しとどまる。賈充はナマエの口を開放してやりながら、目線で問うた。何故とめる、と。
 ナマエはそれに苦笑を目線で返す。
「だめですよ。おなかの子がびっくりしちゃう」
「そうだった。すまん」
 そう云うと、手は袷から離れて代わりにナマエのまだうすっぺらい腹へと下りた。
 先日ナマエの懐妊が分かってから、初めての共寝だった。賈充は懐妊を失念してはいなかったが、口づけを交わしていくうち熱くなり、いつもの雰囲気につい手が伸びてしまった。母体が安定するまでそういうことはお預けだと典医から忠告があったのだった。
 ナマエに深く触れられなくとも、不思議と不満はたまらなかった。こうして抱き合っているだけで満たされるなにかがある。
「健やかに育つといい」
 腹を撫でながらそういうと、ナマエはくすぐったそうに顔を上げた。
「男の子と女の子、どちらがいいですか?」
「お前に似た女子がいい。俺に似ると可愛くないからな」
「あら、そうでもありませんよ。私は公閭様に似た男の子がいいわ」
 賈充は眉根を寄せ、己の妻を見る。
「冗談じゃない」
「本気ですよ」
ナマエ
 たしなめるように呼ぶと、ナマエは可笑しげに身をよじった。
「ふふ、本当なのに」
 くすくす笑う妻を咎める事もできない。賈充は一つため息をついて、ナマエの肩口に顔を埋めた。
 やはり手が物寂しい。どうにかしてこの胸に当たる暖かい二つのふくらみだけでも堪能できないものか。
 賈充は腹に触れていた手を再び襟の袷へと移動させた。
「触ってもいいか」
 ナマエが困ったように笑いながら賈充を見上げる。ややあって、彼女は頷いた。
「少しだけなら」
 袷を解き、現われた乳房をいつも以上に丁寧に愛撫した。やわやわともみしだき、ピンと立った頂きをころころと指で転がし唇を寄せる。乳房は賈充の手にあわせるように柔軟に形を変えた。しっとりとかく汗のにおいが甘い体臭とともに立ち上る。なぞるように乳首を唇でしごけばナマエが可愛らしい嬌声を聞かせてくれた。
 心ゆくまで堪能した後、開放してやった。
 賈充は息を整えるナマエを後ろからぎゅうと抱き寄せた。股間の昂ぶりが早く鎮まるようにとナマエの尻に押し付けながら。
「……やはり、少し早すぎたかもしれん」
 首から立ち上る甘い体臭を嗅ぎながら、賈充は唸るように云った。
「なにがですか?」
「いや」
 ふ、と苦笑いを浮かべて。
「元気な子を産め」
「はい」
 ナマエの穏やかな笑みを、今は守りたい。