ゆびさき
訓練場で、めずらしく賈充殿が舞投刃の訓練をしていた。
私の獲物は槍だ。それと比べて賈充殿の武器は扱いにくそうに思える。そんなことを思いながら、延々賈充殿が訓練用の人形に向かって舞投刃を投擲する姿をぼんやり眺めていた。
賈充殿は私の視線など気にせず、訓練に集中している。
「賈充殿の武器は扱いにくそうですね」
暫く経ったころ、ぽつりとそんなことを呟くと、手を止めた彼がこちらを振り返った。
「そうでもないぞ」
そして、私が手に持つ槍を見やって口の端を持ち上げた。美しい能面のような表情に、感情が宿る。
「まあ、お前の獲物に比べれば、難しいやもしれぬな」
賈充殿の声は低く、心地よい。
「もっと近くで見ても?」
「構わん」
お許しを頂き、ほとほとと賈充殿の近くへ寄る。
訓練を再開した賈充殿は、真剣な表情で舞投刃を人形に向かって投げつける。くるくると弧を描いたそれは、賈充殿の繊細な手によって自在に操られている。すとんと音が鳴りそうなほど綺麗に手の内に戻るのが面白く、つい真剣に見入ってしまった。
いつしか賈充殿は訓練の手を止め、私に近づいてきた。
「くくっ……まるで玩具を前にした稚児のようだな。触ってみるか?」
綺麗な水色の瞳が眇められると、子供のように熱中していたのが恥ずかしくなる。だが、好奇心には勝てない。
いいのですか? と尋ねると、賈充殿は自ら舞投刃を差し出してきた。
「では謹んで」
舞投刃に触れてみる。柄の部分をしっかりと握れば、意外と獲物が重たいことに気づく。賈充殿、細腕に見えたけど意外と腕力はあるようだ。
「こう、ですか?」
賈充殿の動きを真似て舞投刃を人形に向かって投げてみる。だが、彼のように上手く弧は描かなかった。
と、ふいに背後を取られ、後ろから賈充殿の手が伸びてきた。
「違う。そのような投げ方をしたら、腱をいためるぞ」
舞投刃を握る私の手の上から、するりとなぞるように賈充殿の青白い手が握られる。わざとそうしているんじゃないかと思うほど、その触り方は官能的だ。
「ほら……こうだ」
耳元で囁かれる。吐息が混ざったその声に、腰が砕けた。
私は操られるまま、舞投刃を人形に向かって投げた。だが、力が入っていないせいで、舞投刃は人形の足元に突き刺さったまま戻ってこない。
舞投刃を拾いにいこうと頭の中で思っていても、足は動かなかった。なぜならば。
「か、賈充殿」
「どうした」
未だ私の手は賈充殿に握られたまま。いや先ほどよりも、ひどくなっている。賈充殿の細い指先が、私の指の間をくすぐるようになぞっているものだから――。
「い、いえ」
と、その手が持ち上げられる。
「あ」
口に出した時にはもう遅い。私の手の甲に、賈充殿の薄い唇が押し付けられる。
赤い顔のまま言葉もなく悶絶していると、ふと私の顔を見た賈充殿が意地悪く微笑んだ。
「くくっ……可愛らしいものよ」