シルビアちゃんの恋人になりたくて英雄王に男にしてもらう話・前編




注)夢主がシルビアを同性愛者扱い。下品・腐ってる。主な被害者はカミュ。


 サマディーで勇者一行に新たな仲間が加わった。その名もシルビアちゃん。いかにも可憐な女子って名前だけど、その正体は旅芸人のオネエだ。オネエ。
 タレ目で顔が整っていてちょっともみあげが長いシルビアちゃんは黙っていれば文句なしの顔が濃い系代表のイケメンだ。剣の腕もなかなか。でも口を開けばあっと言う間にオネエに早変わり。
 強くてかっこいいのにおもしろオネエ、第一印象はそんな感じだった。
 シルビアちゃんはとにかく明るくて場を和ませるのが上手い。多少演技がかった仕草も様になって、みんなの笑顔を誘う。特にいろいろあって塞ぎがちなイレブンを和ませる術に彼女?彼?は長けていた。
 とはいっても、決して愉快な道化師役という訳ではない。
 あのサマディーのへなちょこ王子に、騎士道精神を説いたのは意外だった。なんで旅芸人のオネエが騎士道に詳しいかはともかく、励ましに奮いたった土下座王子様の気迫はなかなかのものだった。
 ほかにもいろいろな場面でシルビアちゃんはみんなを励ました。夢は世界中の人々を笑顔にすること。そう豪語するだけのことはあるかもしれない。シルビアちゃんの言葉はいつも暖かくて慈愛に満ちている。気遣いの達人は伊達じゃない。
 ほんとシルビアちゃん女神。そしてイケメン。流し目やばい。そして案外常識人で真面目系オネエ。
 何が言いたいのかというと、要するに気がついたらマジボレしてたのである。オネエに。
 いやこれ可能性ないでしょ絶対。本人だってことある毎にイケメンに反応してるし。
 ……。
 ……なーんて早々に諦めると思ったか! 恋する乙女?は強いのだ!(ちょっとなんでそこ疑問符つくの??)あの手この手で攻めてシルビアちゃんをゲットしてやる。
 というわけで、まずはリサーチ開始である。相手は手強い、まずは入念に調査せねば。

***

 とあるキャンプにて。
 その日の夕食も終えた夜、焚き火を囲みながらみんなで談笑していた。
 そんな中、シルビアちゃんは足をそろえて完璧な乙女座りを決め、背筋をピンと伸ばして読書をしていた。ぺらりとページをめくるその指先までいちいち決まってる。
 女子力底辺の私は両膝を抱えて三角座りをしつつ、焚き火向かいに座るシルビアちゃんを眺める。その長いまつげが焚き火に赤々と照らされているのを見つめていると、つい口からぽろりと疑問がこぼれた。
「ねえ、シルビアちゃんの好きな子のタイプってどんなの?」
 あ、しまった流石にストレートすぎた。
 言ってから失態に気づいて口元を押さえると、隣で横になって夜空を見上げていたカミュがぎょっとしたように頭を起こす。
「うわお前、聞きづらい質問を堂々と……」
「あら、でも私も気になりますわ、ねえお姉さま」
「えっ、あたし? そ、そうね、気にならないっていったら嘘になるけど……」
 意外や意外、おっとりタイプのセーニャが食いついてきた。やっぱり女子はこういう話題好きだよね。振られたベロニカがちょっと慌てているのがなんだかかわいい。
 ちなみにイレブンは後ろで鍛冶に精を出している。鼻歌交じりで楽しそうだ。
 さて当の本人はというと、いたって平静だった。ゆっくりと本から顔をあげて、シルビアちゃんはにっこりと微笑んだ。
「アタシのタイプ? そうねえ……。好きになったその子がタイプ、ってやつね。きっと」
「あ、誤魔化された?」
「うふふ、どうかしら?」
 これが大人の余裕ってやつか……! もしかしたらこの手の質問はうんざりするほど受けてきたのかもしれない。我ながらちょっとデリカシーなかったかな。反省。
 結局シルビアちゃんの好みは判明しなかったけど、微笑むシルビアちゃんがかわいいからどうでもよくなった。

***

 次に開始したのは、よいしょ攻撃である。
 とりあえずシルビアちゃんに好意的に接しとけば悪くは思われないだろうとの大ざっぱな目論見である。

「シルビアちゃん剣も短剣も鞭も使いこなせちゃうなんてさすがだなー。かっこいいなー。あこがれちゃうなー」
「うふふありがと。今のアタシがあるのは、過去のアタシの努力のおかげ。いつまでも憧れられるアタシでいられるようにこれからも努力していかなくちゃね。ナマエちゃんも、もしなりたい自分がいるのならそれに向かってアタシと一緒にがんばりましょ!」
「はいオネエさまっ! ……あれ?」

「シルビアちゃんすてき! 今日も笑顔が輝いてる! シルビアちゃんお前がナンバーワンだ!」
「当たり前よ、みんなの笑顔のためまずはアタシが笑顔でいなきゃ! ナマエちゃんもイイ笑顔よ! あら、でもちょっとお顔がむくんでいるわね。また夜更かしでもしたんでしょ! ダメよぉお肌のゴールデンタイムを逃しちゃ。ほらほら、ここの耳のツボがむくみにすっごい効くのよぉ~~~っ」
「あいだだだ……! すっごい効く効く! ……アッ、ハァンッ、らめっ、い゛っ……もう十分だから勘弁して~!」

「どうしたのシルビアちゃんイメチェン!? というかそのスーツやばいねイケメン! ハンサムスーツの名は伊達じゃない! すてきぃ~~!」
「ウフフ、ありがとナマエちゃん。アタシに惚れるとヤケドするわよ! なーんてねっ」
「ん~~~あざといけどかわいいから許す~~~!!」
 ……なんてじゃれあってはいるものの、イレブンに作ってもらった装備をびしっと着こなしながらもきゃっきゃとはしゃいでいるシルビアちゃんが美麗すぎるし男にしか見えないしでさっきから動悸がヤバい。このままだと死因:ハンサムスーツを着たシルビアちゃんになりそう。
 ハンサムスーツ作ってくれたイレブンありがとう、マジありがとう……。あとでイレブン様を拝んどこう。

 ……で、肝心のよいしょ攻撃なんだけど、途中で気づいた。これ私ただのよいしょ役になってない? 引き立て役? カンダタの子分みたいな??
 それじゃダメだ。もっとダイレクトにアプローチしないと!
 というわけで。
「シルビアちゃん今日もきれいだね! 好き!」
「あらうれしい、アタシもよ。うふふ」
「えっ、ほんと!? じゃ、じゃあどのくらいわたしのこと好き?」
「うふふ、それはもちろんみんなと同じくらい好きよ」
「あっ……う、嬉しいありがとう~~~!」
 後ろでベロニカが合掌してた。爆笑してたカミュは後で膝かっくんしておいた。

「シルビアちゃん愛してる! お嫁さんになって!」
「あらアタシがお嫁さんなの? いいけど」
「えっ、いいの!? じゃあシルビアちゃんのウェディングドレス、イレブンに作ってもらわないと」
「えっ、ぼくが!?」
「式ではシルビアちゃんをお姫様だっこできるよう頑張るから!」
「あっはは! アタシがだっこされるの? グレイグくらいの大男じゃないと無理じゃないかしら~」
「うっ、たしかに……。グレイグさん私と体入れ替えよ!?」
「ごふっ、な、お前はなにを言っている……!?」
「こっちは真剣なんですよ~頼むよ~。あ、頭ごちんしたら入れ替わらないかな? いきますよーせーのっ!」
「無茶を言うな! おいやめ……ぐほぉっ!」
 結果、頭にたんこぶできました。
 今日の被害者:イレブン、おじさん、あと後ろでお腹抱えてたマルティナ姫。

「シルビアちゃん今日も綺麗でかっこいいね結婚しよ!」
「いいわよぉ。ハネムーンはどこにする?」
「海辺のリゾートソルティコで!」
「それは却下」
「えーっ! そ、そんなぁ……」
「ではホムラの里はどうじゃ。露天風呂付きの個室であんなことやそんなことができるぞい」
 おじいちゃんそれ自分が行きたいだけでしょ。

 ダイレクト攻撃に切り替えたわけだけど、はっきりいって軽くあしらわれる毎日。真剣に押せ押せだと流石に引かれるかと思って冗談っぽく言っているのが敗因か。
 かといって真面目に告白して玉砕したら流石に立ち直れないからこれくらいがちょうどよいのだ。たぶん。
 まあ嫌がっている気配ないし、楽しんでいるみたいだからいいかな。
 ナマエはシルビアちゃんのよいしょ役から熱狂的なファンにレベルアップした!
「それにしてもナマエさまの不屈の精神にはいつも励まされますわ。たとえ希望が見えなくても、諦めないという姿勢がまず大事なんですね」
 なんて浮かれていたら、まさかのセーニャがとどめ差しに来た。至急ザオリク、たのむ。
 確かに希望はありません。

***

 まあ、といってもそこは不屈の女。立ち直りは早いのが特技です。
 そんなこんなで毎度パーティー内を騒がせてはいるが、お察しの通り進展はほぼゼロ。でもそれでいいのだ。今は落ちてきた勇者の星をなんとかするという使命があるし、シルビアちゃんの隣にいれるだけで満足している。シルビアちゃんの笑顔は私を笑顔にしてくれているから、うん、これでいい。
 それでも、一度だけシルビアちゃんの姿に泣いてしまったことがある。
 プチャラオ村の人たちを苦しめていたハッスルじじいを討伐してから、村人たちの提案で新しく始めたというパレード。ド派手なお神輿の上に立ったシルビアちゃんはパレードのゴージャスな衣装に身を包み、女王様さながら華麗に舞う。その姿を見ていると、ふいにぎゅっと胸が詰まった。
 ――いきててよかった、ひとりでこわかった。あいたかった。あなたがしんでたらどうしようかと――
 知らない記憶が湧きあがってはすぐに消えていく。私は戸惑いながらも、勝手に流れる涙を止められずにいた。
 そんな私に気づいたのか、シルビアちゃんが血相を抱えてすっ飛んできた。
「あらあらどうしたの? 悲しいことでもあった? パレード、楽しくなかった?」
「うっ、じるびあぢゃん……」
「ねえ泣かないで、アナタに泣かれるとアタシどうしたらいいか……」
「ちがう、私、うれしくて」
「あら、じゃあこれは嬉し涙? こまった泣き虫さんね。おいで、抱きしめてあげる」
「まっ、ママァーー!」
「誰がママよ」
 あっ、珍しくちょっと厳しめのツッコミ。
 抱きしめられたシルビアちゃんの腕の中を存分に堪能する。しなやかな筋肉がついていて、体幹がすごくしっかりしている。やっぱり男の人なんだなぁと思いながら、シルビアちゃんの匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。コロンをつけているのか、シトラス系の爽やかでいい匂いがした。
 生きていてよかった、ありがとう神様。

***

「あー今日もシルビアちゃんが尊い……、マジ女神……」
 キャンプにて、今日も私はマイ女神を愛でる。
「かわいいとかっこいいのハイブリットずるいでしょ~~~」
「そうかよかったな」
「今日も戦闘中庇われちゃってもー惚れるしかないでしょ……。あっ、もう惚れてたわ」
「俺のツッコミいらねえんなら、向こうで一人でやっててくれねえかな」
「ああ~イレブン、君の相棒が私に冷たい……」
 隣で包丁を研いでいたカミュが今日も私の言動に呆れる。でも毎回私のシルビアちゃん談義に付き合ってくれるあたり彼はとてもいい奴だ。
 実をいうと、パーティーの中で同世代のカミュが一番話しやすかったりする。
 マルティナはお姫様って聞いたらやっぱりちょっとだけ気後れするし、セーニャはおっとりしすぎて話がうまく噛みあわないことがある。イレブンもそっちのタイプだ。ベロニカとは結構盛り上がるけど、私のシルビアちゃん熱が過熱しすぎて、ある線から急に真顔になって「ごめんそれあたしにもわからない」ってテンションがスンッて落ちる。スンッて。正直ちょっとその差が怖い。グレイグさんとロウおじいちゃんにいたっては、そもそも私のシルビアちゃんフィーバーを理解してくれない。いや、理解していたら逆にちょっと怖いけど。
 というわけで、適度な放置プレイとたまに入る的確なツッコミのバランスが絶妙なカミュにいつも話を聞いてもらっている。横でつらつら勝手に垂れ流しているとも言う。

 でも、この頃少し困っていることがある。それはシルビアちゃんを性的な目で見てしまうということだ。
「ねえカミュ……」
「あん?」
「シルビアちゃんって掘る方と掘られる方どっちが好きだと思う?」
「ぶっ」
 いきなりの爆弾発言に、隣で食材を刻んでいたカミュが吹き出した。
「しらねーよ直接おっさんにきけよ! というかお前マジ下品だな」
 流石に蔑むような冷たい目線でこちらを見てくる。
 だって仕方ないじゃないか。シルビアちゃんの誘うような流し目、うるうるの唇、しなやかな筋肉、引き締まった腰と臀部。かき乱したくなる艶髪。全部が私を引き付けて離さないのだ。
 正直その色気にやられて、取り乱したって仕方ないと思う。私は変態じゃない。断じて。
「あ~~たくさんチューして跡つけて噛み噛みしてハグハグして、恥ずかしがる顔を見下ろしながらメチャクチャに抱きたい」
 夕飯のシチューの鍋をぐるんぐるんとお玉でかき混ぜながら痛い乙女の妄想を口ずさんでいると、不意に背後に人の気配を感じた。
「あら、そういうプレイが好きなの? 意外ね」
「えっ」
 振りかえると、水を汲みに行っていたはずのシルビアちゃんがそこに立っていた。壮絶な流し目をこちらに向けながら、意味深に微笑んでいる。
「中々情熱的だけど、ナマエちゃんは一体誰を抱きたいのかしら? もしかしてカミュちゃん?」
「はっ!? ちがいます! カミュのケツに興味はありません!」
 あらぬ疑いに私は全力で顔をぶんぶん振った。私はシルビアちゃん一筋だ。隣でカミュが、「オレだって興味持たれたくねーわ、んなもん!」と半分泣きながら青筋立てている。
 私はというと、丁度いいタイミングなのでシルビアちゃんにさっきの疑問をぶつけることにした。今聞かずしていつ聞くのだ。女は度胸である。
「シルビアちゃんはちなみに抱く方と抱かれる方、どっちが好き?」
「さあ?」
 シルビアちゃんは悪戯げにウィンクして、うふふと微笑む。と思ったら、おもむろに顔を寄せてきて私の耳元でこう囁いた。
「抱くほうよ」
「……っ」
 ウィスパーボイスが耳元をくすぐり、ぞわっと全身が総毛立つ。耳が燃えるように熱くなって思わず抑えると、シルビアちゃんは満足げに笑って隣のカミュを振りかえった。
「水、これで足りそう?」
「ああ、十分だろ」
「よかった。じゃあアタシ、テント張りの方手伝ってくるわね」

 なにあの色気たっぷりの低音ボイス、完全に腰が砕けたわ。
 シルビアちゃんの去っていく姿を茫然と眺めながら、この高まるパッションを誰かと共有せずにはいられなかった。誰かっていっても、この場にいるのはもちろんカミュしかいないんだけど。
「……抱く方だって」
「そうかよ」
「……あの顔で男抱くの? え、やだかっこいい。オスなシルビアちゃん絶対セクシーでしょ。見たい……」
「いいから手を動かせ。シチューが焦げる」
 指摘に慌てて手元を見る。ぐるりとお玉をかき混ぜて鍋が焦げてないことを確認し、ほっとした。