馬子にも衣装





「馬子にも衣装だな」
 着飾った私を前に、鍾会殿が一言言い放った。
「その見てくれなら悪くないね。この鍾士季の隣に立ってもいいよ」
「ひどい云い様ですね」
 ほとほとと裾を引き摺りながら、鍾会殿の元へ歩み寄る。普段着慣れないものだから、歩きにくいことこの上ない。
 そんな私を一瞥し、鍾会殿は何故か頬を赤くしながら乱暴に言い放った。
「褒めてやってるのだ! それくらい分かれ」
 褒められたのか。まったく、分かりにくいことこの上ない。
「褒められている気がしないんですが」
 そう告げると、鍾会殿はむっとしたようだった。
「いちいち一言多いんだよ、あんたは」
 鍾会殿にそれを言われると、いまいち釈然としない。
 首を捻ってむうんと唸っていると、おもむろにずいと手を差し出された。
「ほら、手をだせ」
 どうやら危なっかしく見えたらしい。ご親切にも差し出された手を謹んで受けると、口調に反してエスコートの手つきは優しい。
「ありがとうございます。意外と優しいんですね」
「ふん、目の前で無様に転ばれては敵わないからな」
 そういって微笑んだ彼の表情は、柔らかかった。
 その微笑みにひそかに見惚れていたことは、彼には秘密だ。